「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」とは?

 2012年には約30万人だった全国の医師数は、10年後の2022年には34万人を超えるまでに増えています。その一方で、課題となっているのが、地域間、診療科間、病院・診療所間の医師の偏在です。2024年の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針 2024)では、医師の偏在の是正を図るために、医師養成課程での取り組み、経済的インセンティブ、規制的手法などを組み合わせた総合的な対策のパッケージを2024年末までに策定することとされていました。
 そのためさまざまな検討会で議論が重ねられ、それらの結果をふまえ、2024年12月25日に開催された厚生労働省医師偏在対策推進本部の会合で「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」が取りまとめられました。

医師偏在対策、3つの基本的な考え方

実効性のある総合的な医師偏在対策を進めるにあたって、以下の基本的な3つの考え方が示されています。

〇医師確保計画に基づく取り組みを進めつつ、経済的インセンティブ、地域の医療機関の支え合いの仕組み、医師養成課程を通じた取り組みなどを組み合わせた総合的な対策を実施
〇これまでは若手医師を対象とした医師養成課程中心の対策でしたが、中堅・シニア世代を含むすべての世代の医師にアプローチする
〇医師偏在指標だけではなく、可住地面積あたり医師数、アクセスなどの地域の実情をふまえ、支援が必要な地域を明確にしたうえで、従来のへき地対策を超えた取り組みを実施

医師偏在対策総合パッケージ、5つの具体的な取り組み

 具体的な取り組みとして挙げられたのが、次の5つです。

1.医師確保計画の実効性の確保
2.地域の医療機関の支え合いの仕組み
3.地域偏在対策における経済的インセンティブ等
4.医師養成課程を通じた取り組み
5.診療科偏在の是正に向けた取り組み

「1.医師確保計画の実効性の確保」とは?

 今後も定住人口が見込まれ、人口減少より医療機関の減少スピードが速い地域等を「重点医師偏在対策支援区域」に設定し、優先的・重点的に対策を進めることになりました。
 この重点区域は、厚労省の示す候補区域を参考とし、都道府県が可住地面積あたり医師数、アクセス、人口動態などを考慮し、地域医療対策協議会・保険者協議会で協議の上で選定します。
 そして、都道府県は、医師確保計画のなかで、重点医師偏在対策支援区域を対象とした「医師偏在是正プラン」を策定することとなりました。

「2.地域の医療機関の支え合いの仕組み」とは

 2020年4月より、地域医療支援病院の管理者は医師少数区域等での勤務経験を持つことが要件の一つとなっています。この管理者要件の対象となる医療機関が拡大され、公的医療機関や、国立病院機構・地域医療機能推進機構・労働者健康安全機構が開設する病院も対象となりました。また、医師少数区域等での勤務経験期間は現行の6カ月以上から1年以上に延長されます。

 また、外来医師多数区域で新規開業を希望する医師に対して、都道府県が、地域の外来医療の協議の場への参加や、地域で不足している医療機能(夜間・休日の初期救急、在宅医療、公衆衛生など)の提供、医師不足地域での医療の提供を要請することができることになりました。この要請に従わない場合、医療審議会で理由を説明することを求めるとともに、やむを得ない理由と認められない場合は、勧告、公表を行い、さらに、保険医療機関の指定期間を6年から3年等に短縮することができます。

 さらに、保険医療機関に管理者を設け、2年の臨床研修と保険医療機関(病院のみ)で3年保険診療に従事したことを要件とすることになりました。この背景には、「直美(ちょくび)」と呼ばれ、臨床研修後の直後に美容医療の診療所で働く若手医師が増えている現状があります。

「3.地域偏在対策における経済的インセンティブ等」とは

 経済的インセンティブとして、次のような支援が検討されています。
・重点区域で承継・開業する診療所に対する施設整備、設備整備、地域定着への支援
・重点区域の医療機関に派遣される医師、従事する医師への手当増額の支援
・重点区域の医療機関に対する土日の代替医師確保などの勤務環境改善の支援、派遣元医療機関に対する支援

そのほか、全国的なマッチング機能の支援、総合的な診療能力を学び直すためのリカレント教育の推進、都道府県と大学病院等との連携パートナーシップ協定の推進も行っていく予定です。

「4.医師養成課程を通じた取り組み」とは

 引き続き、医学部臨時定員や地域枠を活用するとともに、医師少数県等で24週以上の研修を実施する「広域連携型プログラム」を制度化し、2028年度の開始をめざします。

「5.診療科偏在の是正に向けた取り組み」とは

 診療科偏在への是正は国全体として取り組むべき課題と捉え、必要とされる分野が若手医師から選ばれるための環境づくりなど処遇改善に向けた必要な支援を実施します。
 また、外科医師が長時間労働に従事している現状があるため、業務負担への配慮や支援など、手厚い評価について必要な議論を行っていくこととなりました。
 

 このように総合的な対策を行い、施行後5年を目途に効果を検証し、十分な効果が生じていない場合にはさらなる医師偏在対策を検討していくことになっています。
 

◎参考
厚労省「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」
 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001363488.pdf

厚労省「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ(概要)」
 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001363487.pdf

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