医療法人の経営情報のデータベース化、いよいよ始まります

医療法人の経営情報のデータベースを整備するため、2023年8月以降に決算期を迎える医療法人は、毎年行っている決算届(事業報告書など)とは別に、病院や診療所の経営等の情報を報告する新たな制度が始まります。

 

医療法人の経営情報のデータベースは何のため?

 

そもそもなぜ、医療法人の経営情報のデータベース化が求められているのでしょうか。その目的として、次のようなことが挙げられています。

 

〇国民に対して医療が置かれている現状・実態の理解を促進する

〇効率的かつ持続可能な医療提供体制の構築のための政策の検討

〇経営への影響を踏まえた的確な支援策の検討

〇医療従事者等の処遇の適正化に向けた検討

〇医療経済実態調査の補完

 

こうした背景には、少子高齢化で医療費が年々増大していることや、コロナ禍で医療機関の経営状況を把握した上で医療機関への迅速な支援を行ったり国民に情報提供したりすることが十分ではなかったこと、といった課題があります。

 

対象は?

 

今回の新たな制度で対象となるのは、すべての医療法人です。ただし、「対応が困難であることが明らかな医療法人まで義務化すべきではない」と、社会保険診療報酬の所得計算の特例措置(いわゆる四段階税制)が適用されている法人は対象外となります。

 

どんな経営情報の提出が求められるのか?

 

新たな制度では、決算届よりもかなり細かな項目が求められそうです。

 

〇医業収益(入院診療収益、室料差額収益、外来診療収益、その他の医業収益)

〇医業費用(材料費、給与費、委託費、減価償却費、機器賃借料など)

〇医業利益(または医業損失)

〇医業外収益(受取利息及び配当金※※、運営費補助金収益、施設設備補助金収益)

〇医業外費用(支払い利息※※

〇経常利益(または経常損失)

〇臨時収益  〇臨時費用

〇税引前当期純利益(または税引前当期純損失)

〇法人税、住民税及び事業税負担額※※

〇当期純利益(または当期純損失)

〇職種別の給与(給料・賞与)及び賞与、その人数※※

 

これらのうち「※」は病院は必須、診療所は任意の項目で、「※※」は任意項目です。そのほかは必須項目になります。

 

経営情報は「施設ごと」

 

なおかつ、決算届で義務つけられている損益計算書は法人全体の事業収益・費用等のみですが、今回の新しい制度では施設(病院、診療所)ごとの経営情報が求められます。

ただ、複数の医療機関を開設する医療法人のなかには施設別に損益計算書を作成していない法人が約3割あることが事前の調査結果からわかっているため、制度開始から一定期間は提出内容の簡素化を認めるなど、何らかの経過措置が設けられる予定です。

 

データはどこまでオープンに?

 

データベース化された経営情報はどのように公表されるのでしょうか。

個別の医療法人のデータを公表すれば、SNS等で悪意的に利用されたり、一人医師医療法人の場合は個人の報酬額が推測されてしまったりする恐れがあります。また、今回の制度の目的の一つは、「国民に対して医療が置かれている現状・実態の理解を促進」すること。

そのため、個別の医療法人の情報は公表せず、よりわかりやすく情報を公表するために、属性などに応じてグルーピングした分析結果を公表する予定です。

一方、研究者などがデータベースを活用する第三者提供についても、「医療経済に対する国民の理解に資すると認められる学術研究」や「適正な保健医療サービスの提供に資する施策の企画及び立案」に限定し、有識者による審査の仕組みを設けるなど、セキュリティを確保する方法を今後検討していきます。

 

 

◎参照

「医療法人の経営情報のデータベース」の在り方に関する報告書

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001011455.pdf

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