パワハラ防止対策が義務になりました

パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場内の優位性を利用し、嫌がらせを行うことです。

全国医師ユニオンが行った「勤務医労働実態調査2017」では、医師の3人に1人が、これまでに病院内で「パワハラを受けたことがある」と回答しています。

また、都道府県労働局などに設置された「総合労働相談コーナー」に寄せられる相談でも、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は右肩上がりに増えています。

そうしたなか、労働施策総合推進法が改正され、2020年6月1日より、パワーハラスメントに対する防止策をとることが事業主の義務となりました。

 

労働施策総合推進法第30条の2

第30条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 

なお、中小事業主には猶予期間が設けられ、2年後の2022年4月1日から義務化されます。医療・福祉における中小事業主とは、「資本金の額または出資の総額が5,000万円以下」もしくは「常時使用する従業員の数が100人以下」のいずれかを満たすものとされています。

 

パワハラとは

 

職場におけるパワーハラスメントとは、次の3つの要素を満たすものが当てはまります。

 

  • 優越的な関係を背景とした言動

職務上の地位が高い者による言動が主ですが、「同僚または部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であるもの」なども含まれます。

  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動

社会通念に照らし、当該言動が明らかに事業主の業務上必要性がない、またはその態様が相当でないもの。

  • 労働者の就業環境が害される

当該言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなり、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、労働者が就業するうえで看過できないほどの支障が生じること。

その判断にあたっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが適当、とされています。

 

どんな言動が「パワハラ」に当たるのか

 

具体的にどのような言動がパワーハラスメントに当たるのか、次の6つのタイプが挙げられています。

  • 身体的な攻撃(暴行・障害)
  • 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
  • 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  • 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
  • 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
  • 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

 

6つ目の「個の侵害」については、労働者への配慮のために労働者の家族の状況などをヒアリングすることは問題ありませんが、本人の了解を得ずに、労働者の性的指向や性自認、病歴、不妊治療など、センシティブな個人情報を他の労働者に暴露することは、パワハラに当たります。

 

パワハラ防止のために事業主がすべきこと

 

こうしたパワハラを防止するために、事業主には次のような義務が課せられました。

 

  • パワハラに関する方針を明確化し、周知・啓発すること

方針を明確化し、労働者に周知・啓発するとともに、パワハラを行った者に対して厳正に対処する旨の方針や対処内容を就業規則などに規定する

 

  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること

相談窓口を設置し、窓口担当者が相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにする

 

  • パワーハラスメントが起こったあと、迅速かつ適切に対応すること

まずは事実関係を確認し、被害者への配慮、行為者に対する措置を適正に行い、再発防止に向けた措置を講ずる

 

そのほか、相談者や行為者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じること、相談したことを理由に解雇などの不利益な取り扱いをされないようにすることも、事業主の義務です。

 

患者・家族からのハラスメントも

 

一方、働く職員も、ハラスメント問題に関心と理解を深め、他の労働者(取引先や求職者も含まれます)に対する言動に注意を払うことが求められます。

 

パワハラは、どこの職場でも起こり得ることです。職員間のみならず、最近では患者、家族からの過剰な要求などの問題もよく耳にします。

これまでパワーハラスメントは法律上に規定されていませんでしたが、今回の法改正によって、パワハラが起きない職場環境をつくるとともに、パワハラから職員を守る体制を整えることが事業主に課せられた義務となりました。各職場で対応が必要です。

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