高血圧の食事指導に――「日本人の食事摂取基準(2025年版)」報告書より
クリニックの先生方は、高血圧、脂質異常症、糖尿病という3大生活習慣病の患者さんに対して、診察のなかで食事のアドバイスをする場面も多いと思います。昨秋、「日本人の食事摂取基準」の2025年版の報告書が公表されました。2025年度から2029年度までの5年間使用されるものです。
この報告書のなかで、それぞれの生活習慣病を予防・改善するには食事で何を控え、何を増やしたほうがいいのか、エネルギー・栄養素との関連についても説明されています。今回は高血圧にまつわる食事についてご紹介します。
高血圧にかかわる栄養素・エネルギー
下記は、高血圧に特にかかわる栄養素・エネルギーとの関係を示した概要図です。
◎減塩が基本、でも高齢者は低栄養に気を付ける
まず、ナトリウム(食塩)の過剰摂取が血圧を上げることは周知のとおりで、報告書では「食塩摂取量を1g/日減らすと、収縮期血圧で約1mmHg強の降圧が期待できる」 こと、「133の介入試験のメタ・アナリシスにおいて、減塩によって達成される血圧低下の大きさは、ほぼ直線的関係である こと」を紹介しています。
ただ、高齢者については、「高齢者は一般に食塩感受性が高く、減塩は有効」であるものの、「過度の減塩や極端な味付けの変化は食事摂取量の低下から低栄養を起こす場合がある」ため、全身状態の管理に注意しながら減塩指導を行うようアドバイスしています。
◎肥満は高血圧が2倍に
報告書によると、北海道での10年間の縦断研究では、肥満者は非肥満者に比べて高血圧のリスクは約2倍だったそうです。ただ、ダイエットのためのエネルギー制限は、「減量すれば血圧が低下するが、エネルギー制限をしても体重が減らなければ血圧は低下しない」ことが報告されており、「肥満自体が高血圧の重要な発症要因」になっています。
介入試験のメタ・アナリシスでは「約4kgの減量により、収縮期で−4.5mmHg、拡張期で−3.2mmHgの血圧降下」が報告されています。
◎飲酒はゼロが理想だが……
飲酒の血圧への影響については短期と長期でちょっと異なります。介入試験のメタ・アナリシスでは、低用量のアルコール摂取(純アルコール14g未満)では血圧に影響はなく、高用量のアルコール(純アルコール>30g)摂取は、6時間以内に血圧を3.5/1.9mmHg低下させた一方、13時間以上経過後の血圧を3.7/2.4mmHg上昇させました。
一方、習慣的飲酒量が多くなればなるほど、高血圧の頻度は高くなり、経年的な血圧上昇も大きくなることが多くの疫学研究でわかっています。なおかつ、その関係には閾値がなく、つまり理想をいえばゼロにならない限り、リスクはなくならないということです。
◎ナトリウム・カリウム対策に代替塩の活用も
野菜、果物、低脂肪乳製品が豊富な食事パターンである「DASH食」の血圧低下効果はよく知られています。カリウムは、その主要な栄養素の1つです。
ちなみに、カリウムは、藻類、果実類、いも類、豆類、肉類、魚介類、野菜類などに多く含まれ、生鮮食品に多く、加工や精製が進むと減少します。そのため、「高血圧治療ガイドライン2019」では、野菜・果物の積極的な摂取を推奨しています(腎障害患者さんは除いて)。
また、食塩を減らしてカリウムを増やすという点では、最近、塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムに置き換えた「代替塩」が売られています。報告書でも、「代替塩によるナトリウムの減少とカリウム摂取量の増加は循環器疾患の発症及び総死亡率を減少させる」ことがわかってきていると、代替塩の有用性を紹介しています。
◎炭水化物が血圧を上げる⁉
そのほか、報告書では、カルシウム、マグネシウム、魚油由来のn-3系脂肪酸(EPA、DHA)もDASH食の主要な栄養素の1つであり、血圧低下効果が示されていることを紹介しています。
また、30歳以上の120~159/80~99mmHgの人を対象にした介入試験「OmniHeart研究」では、「食事の炭水化物の一部をたんぱく質で置き換えると、軽度であるが有意な血圧低下が認められ」、とくに「植物性たんぱ質の増加の程度が大きかった」そうです。裏を返せば、「炭水化物が血圧を上げる可能性」があるということです。
植物性たんぱく質の代表格が、大豆です。大豆たんぱくの血圧低下効果についてはメタ・アナリシスがあり、「大豆たんぱくの中央値30g/日で有意な血圧低下」が示されています。
ちなみに、木綿豆腐のたんぱく質含有量は100gあたり7gなので、1丁(300g程度)では21gほど、納豆1パック(40g)は6.6gほどです。木綿豆腐1丁と納豆1パックで、30g弱ですね。
高血圧患者さんへのアドバイスに、参考になれば幸いです。
※参考
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
長寿科学振興財団「健康長寿ネット」カリウムの働きと1日の摂取量
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-k.html
文部科学省「食品成分データベース」
https://fooddb.mext.go.jp/index.pl
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